悲しき紙片

 アマゾンで買つた『女子学生、渡辺京二に会いに行く』に何やら紙片が挾まつてゐる。「F佳 面白そうな本を見つけたので、ちょっと早めのクリスマスプレゼントとします。 Y照」
  はゝあ、Y照はなか\/の讀書家だな。そしてF佳は、平生は讀書なども碌にせぬ頃日の女子學生か。さういふ娘に、『逝きし世の面影』なんぞ贈つたところで、優雅な置物となり果つる定め、讀んでくれる道理もあるまいが、かういふ對話本ならば文章も難くない、あまつさへ聞き手は娘にさほど遠からぬ年のほど、すこしばかりは興味を示してくれるかもしれない──。Y照の苦心のほどがうかゞはれる。かくて、たつた一行の書き留めからくさ\/゛の空想が膨らみ。かゝることもまた、古書を手にとる樂しみの一つなるかなと、しづかに思ふのだつた。しかし、まあ、人から讓り受けた本を古書店に賣り払ふとは、酷薄な女、いかにぞや、と言ひたくもなるところ。

  ──昔かたぎのみやびをの、つれなむすめにえとゞかで、賣り払はれし心ばせ、顏も知られぬこのおれが、受けとつておくなさけかな。

笹塚透の手記

備忘録。所詮。

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